
ウェルビーイング経営の5つの課題と克服法とは?企業の成功事例から学ぼう
従業員の身体的・精神的健康と幸福を重視する「ウェルビーイング経営」。
いま多くの企業が注目する経営アプローチであり、働き方改革や職場環境の改善、人材確保など様々な組織課題の解決策としても期待されています。
しかし、実際に取り組もうとすると「何から始めればいいのか分からない」「やってはみたものの手応えがない」といった声も少なくなく、多くの企業が導入時の課題に直面しています。
この記事では、実際の成功事例をもとに、ウェルビーイング経営に取り組む際に企業が直面しやすい課題を5つに整理し、よくある落とし穴や解決のヒントまで紹介します。
これから導入を考えている企業の方はもちろん、すでに動き出しているが課題感を持っている方にとっても、実践につながる視点が得られるはずです。
ウェルビーイング経営とは?
ウェルビーイング経営とは、従業員が身体的・精神的・社会的に良好な状態で働けるよう、企業がその環境を整え、様々な職場の課題を解決しようとする経営のあり方です。
単に健康を維持するだけではなく、やりがいや人間関係、ワークライフバランス、自己成長の機会までを含めて考えるのが特徴です。
こうした取り組みは、モチベーション低下や離職率の高さといった課題を解消します。
例えば職場のコミュニケーションを活性化させ、生産性の向上につながり、優秀な人材の確保にも役立ち、結果として企業の競争力を高めるものとして注目されています。
ここでは、似た考え方として混同されやすい「健康経営」との違いにも触れておきましょう。
健康経営との違い
「健康経営」は、従業員の身体的健康やメンタルヘルスの維持・増進を通じて企業の生産性や業績を高めようとする取り組みです。
主にフィジカル面とメンタルヘルスに焦点を当て、定期健診、ストレスチェック、産業医面談などの制度を中心として社内の健康意識向上を目指します。
一方で「ウェルビーイング経営」は、健康の枠を超えて、従業員一人ひとりの幸福や人生の充実、社会的つながりといった要素まで含んだより広い視点の経営概念です。
これはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」や「働きがいも経済成長も」という目標8と親和性が高く、Society 5.0が目指す人間中心社会にも通じる概念といえます。
たとえば、職場の人間関係や働く意味の実感、キャリアの自由度、プライベートとの両立支援などもウェルビーイング経営の重要な要素に含まれます。
つまり、健康経営が「不調を防ぐ」という課題に主眼を置くのに対し、ウェルビーイング経営は「良好な状態を育て続ける」という課題に取り組むアプローチと言えるでしょう。
企業が直面するウェルビーイング経営の課題5選
ウェルビーイング経営は理想的な取り組みである一方、人材不足や社内コミュニケーションの問題など、実行に移すには多くの実践課題やハードルがあります。
実際、先行して導入した企業の多くも、様々な課題に直面し、最初から順調に進んだわけではありません。
ここでは、特に多くの企業が共通して直面する5つの課題を紹介します。
自社で取り組む際に陥りやすいポイントをあらかじめ理解しておくことで、失敗を回避し、より効果的な推進が可能になります。
1. 概念が抽象的で、社内に浸透しづらい
ウェルビーイングという言葉は幅広く、人によって捉え方がまったく異なるという課題があります。
その結果、施策の目的や意味が社内でうまく共有されず、「なんのためにやっているのか」が曖昧になりがちです。
単なる福利厚生の強化と誤解されることもあり、社内の理解不足という課題が解決されないまま、精神的・身体的健康や幸福度向上という本質から離れた表面的な取り組みになってしまうケースもあります。
2. 成果が見えにくく、KPIが定まらない
ウェルビーイングの状態を定量的に測るのは難しく、これは多くの企業が抱える課題で、成果が実感しづらいという声は多くあります。
「施策をやった結果、何がどう変わったのか」が曖昧になり、手応えを感じにくいことも課題のひとつになり得ます。
定性的な変化を無理やり数値に落とそうとして職場が疲弊したり、生産性低下を招いたりする課題も少なくありません。
これはメンタルヘルスにも悪影響を与えかねません。
何をゴールとし、どんな指標で進捗を判断するのかを明確にしないまま始めると、途中で頓挫するリスクが高まってしまいます。
「やって終わり」にならないためには、初期段階でKPIの設計と可視化の仕組みをつくっておくことが不可欠です。
3. 経営層の理解と優先順位づけが難しい
売上への直接的な貢献が見えにくいという課題があるため、経営層の関心が薄くなりがちです。
「うちはまだそこまで余裕がない」「現場レベルの話だろう」といった認識にとどまってしまうと、全社での推進は難航します。
ウェルビーイング経営はブランディングや採用力にもつながる中長期の投資ですが、その視点を持つ経営層はまだ一部です。
トップが本気で動かない限り、予算も人材も確保できないという課題があり、働き方改革や社会的価値の創出といった本質的な取り組みができず、施策が表面的になりがちです。
まずは経営層向けに、具体的な効果や他社事例をもとにした啓発が必要です。
4. データを活用しきれず、PDCAが回らない
アンケートやサーベイは実施していても、分析の課題があり、次の施策につなげるかまで落とし込めていない企業は多くあります。
「とりあえずやった」という実績づくりで終わり、集めたデータが活用されないまま眠っているケースも少なくありません。
傾向の把握、部門別の差異分析、変化の推移など、本来見えるはずの情報を活かせていないという課題があります。
PDCAが形だけになると、現場の信頼を失い、「どうせまた変わらない」という諦めが生まれてしまいます。
データの見える化と、実行部隊との連携体制をセットで整えることがカギになります。
5. リソース不足で本格的に取り組めない
担当者が他業務と兼任だったり、専任チームが存在しない企業では、人材不足という課題があり、どうしても後回しになりがちです。
特に中小企業では、時間も人も限られている中で、ウェルビーイング経営が「理想論」で終わってしまうことも少なくありません。
本気で取り組むには、担当の明確化と必要最低限のリソース確保が出発点になります。
ウェルビーイング経営で失敗しやすい3つの落とし穴
ウェルビーイング経営は良い取り組みであることは間違いありませんが、実行方法の課題があると逆効果になることもあります。
実際、多くの企業が初期段階でつまずく共通パターンがあります。
ここでは、ありがちな失敗例を3つに絞って紹介します。
これから取り組む企業は、まずこの3つを避けることがスタートラインです。
形だけの取り組みになってしまう
ポスターを掲示したり、アンケートを取っただけで「やってます」と見せかけてしまうケースです。
社員にとっては、何がどう変わったのかが実感できず、むしろ「またか」と冷めた目で見られることもあります。
目的や背景の説明がなく、手段だけが先行すると、コミュニケーションの課題から現場との温度差は広がる一方です。
見た目だけを整えるのではなく、「なぜこの施策をやるのか」から丁寧に共有していく必要があります。
評価や可視化が後回しになる
始めることに注力しすぎて、効果検証という課題が後回しになるパターンもよく見られます。
「一度やって満足」で止まってしまい、継続性の課題から翌年には何も続いていないという話は少なくありません。
特にウェルビーイングのような定性的なテーマは、可視化と継続がセットで重要です。
たとえば以下のような指標を最初に決めておくだけでも、取り組みの軸がブレにくくなります。
指標 | 具体例 |
---|---|
定量 | 離職率/有給取得率/サーベイ回答率/1on1実施数 |
定性 | 心理的安全性スコア/社内コメントの質/感情面の変化 |
短期的なROIばかりを気にする
「コストに対して何の成果があるのか?」「いつ回収できるのか?」といった短期目線の課題で判断してしまうと、すぐに限界がきます。
ウェルビーイングは中長期で従業員のパフォーマンスや組織文化に作用するものです。
短期間で売上に直結させようとすると、かえって施策がチグハグになり、現場に疲弊感を与えることもあります。
ROIは「採用力」「定着率」「離職コストの削減」などの間接的な効果も含めて捉える視点が必要です。
成功企業に学ぶ、課題解決のヒント
実際にウェルビーイング経営を取り入れて成果を出している企業は、どこに課題を感じ、どう乗り越えてきたのでしょうか。
ここでは、具体的な企業事例をもとに、各社の工夫やアプローチを紹介していきます。
自社の課題と照らし合わせながら、施策づくりのヒントとして参考にしてください。
独自指標の開発でKPIを明確化(スカイベイビーズ)
スカイベイビーズは「自然体経営」という独自の呼び方でウェルビーイング経営に取り組み、自社の価値観を軸にした施策を進めています。
最大の特徴は、ウェルビーイングの「見える化」が難しいという課題に対して、独自のサーベイツールを開発して指標設計から着手した点です。
社内のメンバーと一緒に指標を作成することで、概念のすり合わせや意識共有が可能になり、実態に即したKPIの構築にもつながっています。
また、専門家の意見を取り入れながら定期的に指標をブラッシュアップし、精度を高める運用も行われています。
さらに、サーベイの結果をもとに働き方や職場環境の改善施策も連動しており、1on1や社内ミートアップを通じて、社内の心理的安全性を高める基盤も整備しています。
参考:ウェルビーイング経営に取り組んで実感した4つの課題【自然体で生きるために】 – SKYBABIES JOURNAL│ウェルビーイング経営/自然体ブランディングを後押しするブログ
対話を軸にした一体感ある環境づくり(デンソー)
デンソーは、ウェルビーイング経営を「相互信頼・相互責任」の構築によって支えるスタイルで実践しています。
特徴的なのは、トップダウンではなく「対話と協議」を重視した労使関係と組織づくり。
社長メッセージや各拠点での説明会、懇談会などを通じて、経営方針や現場の課題をタイムリーに共有する仕組みを整備しています。
また、全社員対象のエンゲージメント調査を実施し、結果を職場ごとにフィードバック。
現場単位での話し合いを通じて職場環境を改善し、PDCAを自律的に回す文化を根づかせています。
加えて、人事制度でも「年功から成果・役割」重視への移行を図り、チャレンジを評価しやすい報酬制度に刷新。
さらに、福利厚生として選択型制度「デンソーカフェテリアプラン」や持株会の活用など、経営参画意識や働きがいを促進する仕組みも充実しています。
グローバル企業として、地域や文化を越えて共通の価値観でウェルビーイングに向き合う好例と言えるでしょう。
参考:コミュニケーションに基づく相互信頼・相互責任 | 社会への取り組み | サステナビリティ | デンソーについて | DENSO – 株式会社デンソー
幸福度を可視化して健康を経営に統合(積水ハウス)
積水ハウスは「世界一幸せな会社」を目指す方針のもと、「幸せ健康経営」を全社戦略に位置づけています。
従業員の心身の健康を経営課題と捉え、ESG推進委員会や健康プロジェクトチームを中心に、社会的価値創出も視野に入れた指標とKPIに基づく計画的な健康経営を展開しています。
注目すべきは、「幸せ度調査」を導入し、働きがいや自己成長など主観的指標も組織レベルで可視化している点です。
その結果を基に、職場ごとのワークショップを実施。
会話と感謝を軸にしたアクションを通じて、職場と個人の幸せ度を高めています。
また、AIを活用した健診データ分析や歩行イベント、レシピコンテスト、女性の健康セミナーなど、従業員の参加を促す多様な施策を展開。
喫煙率の低減やメンタル不調の予防、生産性改善など具体的な5つの目標を掲げ、実行と改善のサイクルを回しています。
組織的にも自律的にも「幸せ」を実現する好例と言えるでしょう。
参考:幸せ健康経営 | ESG経営 | 企業・IR・ESG・採用 | 積水ハウス
これからウェルビーイング経営に取り組む企業へ
ウェルビーイング経営は、様々な課題を乗り越えながら育てていくものであり、一足飛びに完成するものではありません。
だからこそ、これから取り組む企業は「まずはやってみる」ことが重要です。
ここでは、無理なく始められる3つのステップを紹介します。
まずは「現状の見える化」から始める
最初の一歩は、自社の従業員が今どんな状態にあるのかを知ることです。
健康診断の結果だけでなく、ストレスチェックやエンゲージメントサーベイ、定着率や離職率などを組み合わせて組織の課題を見える化します。
主観的な幸福度を測る調査も有効です。
数値にすることで、課題が「気のせい」ではなく「事実」として認識され、社内の理解も得やすくなります。
ツール・サービスを活用して負荷を軽減する
自社だけですべてを設計・実行するのは負担が大きすぎます。
サーベイツールやストレス分析サービス、アウトソーシングできる健康支援などを活用し、最小の労力で最大の効果を狙うのが現実的です。
外部と連携することで、専門知見や他社事例も活用でき、自社に合った改善策の発見にもつながります。
中長期で取り組む「投資」として考える
ウェルビーイングはすぐに数字で成果が出る領域ではありません。
短期のROI(投資対効果)を求めすぎると、本質的な改善に至らず、表面的な取り組みで終わるリスクもあります。
重要なのは「人材に投資する」という視点。
健康と幸福度の高い人材は、創造性や定着率が高く、企業の価値を中長期で底上げしてくれます。
持続可能な組織づくりへの第一歩として、腰を据えて取り組む姿勢が求められます。
記事のまとめ:課題を知れば、ウェルビーイング経営は実現できる
ウェルビーイング経営は、ただ「いいことをする」だけでは成り立ちません。
人材マネジメントや職場環境整備、生産性向上など総合的な取り組みが必要です。
抽象的な概念、見えにくい成果、経営層の理解不足、メンタルヘルスケアの難しさ、テレワーク環境での人材管理、リソースの限界。
多くの企業が同じような課題につまずいています。
だからこそ、まずは課題を知ることがスタートラインです。
この記事で紹介した事例やヒントをもとに、自社に合ったアプローチを少しずつ試してみてください。
一歩ずつでも課題を解決しながら確実に進めば、従業員の幸福と企業の成長は両立できるはずです。
ウェルビーイング経営は、未来を担う組織の新しい“当たり前”になる日が、すぐそこまで来ています。
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