
6つの指標で従業員の幸福度を可視化!ウェルビーイング経営実践法
近年、多くの企業が「ウェルビーイング経営」に取り組んでいます。
従業員の幸福を軸にした経営スタイルは、単なる福利厚生を超え、持続可能な成長戦略として位置づけられ始めています。
実際に、ウェルビーイングを数値で捉える「指標」が整備されつつあり、エンゲージメント向上や離職率低下など、経営効果も見逃せません。
この記事では、ウェルビーイング経営の基礎から、代表的な計測指標、導入ステップ、先進企業の事例まで、今押さえておくべき実践知を網羅的に解説します。
ウェルビーイング経営とは?
ウェルビーイング経営とは、従業員の幸福や充実感を経営の中心に据える考え方です。
利益や効率を重視する従来型のマネジメントから一歩進み、心身の健康、人間関係、仕事の意義など、より広い観点での「満たされた状態」を目指します。
この考え方は、従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下、企業イメージの向上にも直結し、結果的に持続可能な経営を支える土台となります。
ウェルビーイングの意味と背景
「ウェルビーイング(Well-being)」は、肉体的・精神的・社会的に良好で満たされた状態を指します。
語源は「well(良い)」+「being(状態)」で、健康や幸福を超えた、全体としての“充実感”を表す言葉です。
1946年、WHO憲章でも「健康とは、病気でないことではなく、肉体的にも精神的にも社会的にも完全に満たされた状態」と定義されました。
さらに2015年には、SDGs(持続可能な開発目標)にも「ウェルビーイング」が盛り込まれ、国際的な関心も高まりを見せています。
なぜ経営に必要とされるのか
現代では、「人材が企業の競争力を左右する」という考え方を重視する企業が増えています。
長時間労働やメンタルヘルスの悪化が生産性に与える影響が可視化される中、従業員の幸福度を重視した経営が必要不可欠となっています。
また、働き方改革や多様性の尊重、コロナ禍を経た価値観の変化も背景にあり、ウェルビーイング経営の導入が企業の重要戦略として求められています。
従業員のウェルビーイングが高い組織では、仕事への没頭(エンゲージメント)や創造性が高まり、結果として業績にも好影響をもたらすことがわかってきました。
つまり、ウェルビーイング経営は“やさしい経営”ではなく、“強い経営”に直結する戦略的アプローチなのです。
ウェルビーイング経営のメリット
ウェルビーイング経営は、従業員の幸福を追求するだけではなく、企業の競争力や成長性を高める経営戦略として注目されています。
一人ひとりの働く意欲と健康状態が、組織全体の成果に直結するという考え方が浸透しつつあり、多くの先進企業が導入を進めているのです。
ここでは、ウェルビーイング経営が企業にもたらす代表的な4つのメリットを解説します。
従業員の生産性と定着率の向上
幸福感が高い従業員は、集中力や創造力が高く、仕事に対する積極性も強まります。
結果として、業務効率や生産性の向上に直結するのです。
また、働く環境への満足度が高まることで離職率も低下し、人材の流出リスクを減らせます。
企業イメージ・採用力の強化
ウェルビーイングを重視する企業は、社外から「人を大切にする会社」として認識されやすくなります。
これはブランディングや採用面でも大きな強みです。
特に若年層の求職者は、給与や福利厚生だけでなく、働きやすさや価値観への共感を重視する傾向があり、優秀な人材の確保にもつながります。
イノベーション創出との関連
自由に発想できる心理的安全性や、挑戦を応援する組織文化は、ウェルビーイング経営と親和性が高いものです。
心の余裕が生まれることで、従業員はアイデアを積極的に出し合い、新たな価値創造につながる可能性が高まります。
結果として、変化に強く創造的な組織が育ちやすくなるのです。
「人の幸福」により持続可能な企業に成長する
企業を取り巻く環境は、人材不足、価値観の多様化、変化の激しい市場など、かつてないスピードで変化しています。
こうした中で、従業員一人ひとりの心身の健康や幸福感が、企業の競争力に直結する時代になりました。
ウェルビーイング経営は、人材の活力を最大限に引き出し、企業の持続可能な成長を実現する重要な戦略基盤として機能します。
実際に、幸福度の高い従業員ほど業務への集中力や創造性が高く、組織に対するエンゲージメントも強くなるという調査結果も報告されています。
単なる福利厚生や働きやすさを超えて、従業員の「幸福づくり」に本気で取り組むことが、今後の経営に求められる姿勢です。
ウェルビーイングを測る6つの代表的指標
ウェルビーイング経営を導入するうえで、最初に立ちはだかるのが「どうやって幸福度を測るのか?」という問題です。
感覚的に捉えられがちなウェルビーイングですが、実は世界中で指標化が進み、個人・組織・社会レベルで数値的に測ることができるようになってきました。
- 主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング
- PERMAモデル(セリグマン)
- ギャラップ社の5つのウェルビーイング
- 世界幸福度ランキング(UN/SDSN)
- OECD「より良い暮らし指標」
- 日本発「幸せの4因子」(前野隆司教授)
ここでは、「主観的」と「客観的」なウェルビーイングの測定指標の違いを押さえた上で、世界で活用されている代表的な6つの指標を紹介します。
1. 主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング
ウェルビーイングの指標は、大きく「主観的」と「客観的」に分けられます。
主観的ウェルビーイングは、個人の感情や満足感、幸福感といった“自分自身の感じ方”に基づいた指標です。
一方で客観的ウェルビーイングは、平均寿命や収入、労働時間など、統計やデータで測定される“外から見える要素”を指します。
項目 | 主観的ウェルビーイング | 客観的ウェルビーイング |
---|---|---|
特徴 | 本人の感情や自己評価に基づく | 数値や事実に基づく統計的データ |
例 | 生活満足度、幸福度、仕事の充実感 | 収入、労働時間、有休取得率、健康診断結果 |
測定方法 | アンケート、インタビュー | 統計データ、定量調査 |
どちらも一長一短があり、主観的な満足度だけでは実態を捉えきれず、客観データだけでは本人の幸福感を見落とすリスクがあります。
そのため、近年のウェルビーイング経営では、この2つの観点を組み合わせたハイブリッド型の指標活用が主流となりつつあります。
例えば、従業員アンケートでの満足度と、実際の健康診断結果や労働時間データを照らし合わせることで、よりリアルな状態把握が可能です。
2. PERMAモデル(セリグマン)
PERMAモデルは、ポジティブ心理学の第一人者マーティン・セリグマン氏が提唱した、ウェルビーイングを構成する5つの要素です。
一時的な快楽よりも「持続的な幸福(フローリッシュ)」に焦点を当て、心の健やかさを可視化する代表的な枠組みとして世界的に採用されています。
職場環境や人材育成にも応用しやすく、企業のエンゲージメント指標としても注目を集めています。
要素 | 説明 |
---|---|
P (Positive Emotion) |
喜び・感謝・希望などポジティブな感情を日常的に感じられるか |
E (Engagement) |
仕事や趣味などに没頭し「今この瞬間」に集中できているか |
R (Relationships) |
信頼や共感に基づく人間関係を築けているか |
M (Meaning) |
人生や仕事に意味や意義を感じているか |
A (Accomplishment) |
目標達成や成功体験から自己効力感を得られているか |
これらの要素は「PERMAプロファイラー」と呼ばれる23問のアンケート形式で測定され、結果は職場の改善やマネジメント施策の基盤として活用できます。
日本企業向けには文化背景を踏まえた設問設計も行われており、適用のハードルは年々下がっています。
3. ギャラップ社の5つのウェルビーイング
What Is Employee Wellbeing and Why Is It Important? – Gallup
https://www.gallup.com/workplace/404105/importance-of-employee-wellbeing.aspx.aspx
アメリカの調査会社ギャラップ社は、世界各国で幸福度に関する大規模調査を実施し、ウェルビーイングを5つの視点から定義しています。
仕事・人間関係・お金・健康・地域社会という日常生活の中心的なテーマを網羅しており、実務に落とし込みやすいのが特徴です。
世界幸福度ランキングのベースデータとしても用いられており、グローバル企業でも広く活用されています。
要素 | 説明 |
---|---|
キャリア・ウェルビーイング | 日々の仕事や活動に満足しているか、目的意識を持って働けているか |
ソーシャル・ウェルビーイング | 信頼できる人間関係や社会的つながりを持っているか |
フィナンシャル・ウェルビーイング | 経済的な安定と将来への不安の少なさ、収支のバランス |
フィジカル・ウェルビーイング | 心身の健康状態と、やりたいことに使えるエネルギーの充実度 |
コミュニティ・ウェルビーイング | 地域や所属する組織への愛着や貢献意識を持っているか |
これら5つの視点は、個人レベルの幸福度の可視化はもちろん、チームや組織全体のウェルビーイング診断にも有効です。
特に「キャリア」と「人間関係」における課題は、職場の離職やストレスの要因とも重なるため、経営施策の土台にもなります。
4. 世界幸福度ランキング(UN/SDSN)

Figure 2.1: Country Rankings by Life Evaluations in 2021-2023
「世界幸福度ランキング(World Happiness Report)」は、国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が毎年発表する国際的な幸福度調査です。
世界150カ国以上を対象に、国民の主観的な幸福度を数値化し、各国のスコアを比較しています。
調査は米ギャラップ社が実施し、0〜10の11段階で「自分の人生への満足度」を評価する「キャントリルの梯子」という指標を用いています。
評価要素 | 概要 |
---|---|
一人当たりGDP | 経済的な豊かさの水準 |
健康寿命 | 健康で長く生活できる年数 |
社会的支援 | 困ったときに頼れる人がいるかどうか |
自由度 | 自分の人生を自分で決めている実感 |
寛容さ | 寄付やボランティアなど、他者への思いやり |
政府・制度への信頼 | 汚職の少なさや政治への信頼感 |
このランキングは、国際比較において自国の幸福度や社会課題を客観的に把握する手がかりになります。
日本は2024年時点で51位と、経済力に比して主観的幸福度が低い傾向にあり、企業の役割がより重視されつつあります。
5. OECD「より良い暮らし指標」
OECD(経済協力開発機構)は、GDPだけでは測れない「生活の質」を可視化するために、「より良い暮らし指標(Better Life Index)」を2011年に導入しました。
これは加盟38カ国を対象に、人々がどれほど豊かで満たされた生活を送っているかを評価する指標です。
物質的な条件と生活の質の2軸から、ウェルビーイングを多角的に把握します。
分類 | 評価項目 |
---|---|
物質的生活条件 | 所得・資産、住宅、雇用 |
生活の質 | 健康、教育、環境、主観的幸福、安全、ワークライフバランス、社会的つながり、市民参画 |
各項目に対して国民が感じる主観的評価と、政府統計による客観的数値の両方を組み合わせて分析されます。
また、国別の平均値だけでなく、男女差や所得層ごとの格差といった不平等の側面にも焦点を当てている点が特徴です。
6. 日本発「幸せの4因子」(前野隆司教授)
慶應義塾大学の前野隆司教授が提唱する「幸せの4因子」は、日本人の幸福感を体系的に整理した、国産のウェルビーイング指標です。
大規模なアンケート調査から導き出されたこの4因子は、実際の企業研修や自己診断ツールなどにも活用されています。
ウェルビーイングをシンプルかつ実践的に捉えられる点で、多くの企業で注目されています。
4つの因子 | 意味・内容 |
---|---|
やってみよう因子 | 自己実現と成長。夢や目標に向かう意欲。 |
ありがとう因子 | 人とのつながりと感謝。他者との良好な関係性。 |
なんとかなる因子 | 前向きさと楽観性。自己肯定感や柔軟な思考。 |
ありのままに因子 | 自分らしさの尊重。他者と比較せず自分軸で生きる。 |
この4因子は、従業員の幸福度を内面的な側面から分析するのに適しており、企業の人材育成や組織風土改革にも応用しやすい特徴があります。
ウェルビーイング経営実践の5ステップ
ウェルビーイング経営は、理念だけでは実現しません。
現状を把握し、課題を明らかにし、施策を実行して成果につなげるまでには、段階的なプロセスが必要です。
ここでは、企業がウェルビーイング経営を実行するための5つの基本ステップを紹介します。
1. 現状把握(調査・サーベイの設計)
最初のステップは、組織の「今」を可視化することです。
従業員満足度調査、ストレスチェック、エンゲージメントサーベイなどを組み合わせ、ウェルビーイングの現状を把握します。
調査設計では「目的」「測定項目」「回収方法」の明確化がポイントになります。
2. 課題分析とKPIの設定
調査結果をもとに、どの領域に課題があるかを分析します。
例えば、「やりがいが低い」「関係性が希薄」「健康に不安」などの傾向が見えれば、重点的に対策すべき領域が明確になります。
改善状況を追えるよう、具体的なKPI(指標)を設定し、その指標の変化を定期的に測定することも重要です。
3. 施策の実行(健康・キャリア・関係性支援)
課題ごとに最適な施策を講じていきます。
- 健康面:定期健診、運動習慣支援、メンタルヘルス対策など
- キャリア面:キャリア面談、リスキリング支援、自己決定感の醸成
- 関係性:心理的安全性のある場づくり、上司・同僚との対話の場
短期施策と中長期施策を組み合わせるのがコツです。
4. モニタリングと改善(PDCA)
施策をやりっぱなしにしないためには、定期的なモニタリングが不可欠です。
サーベイの再実施、1on1の実施率、離職率などを追いながら、施策の有効性を確認します。
結果をもとに改善を重ねる「PDCAサイクル」が、ウェルビーイング経営を持続可能なものにします。
5. 文化として根づかせる
最終ステップは、ウェルビーイングの考え方を組織文化に定着させることです。
経営層のコミットメント、制度との連動、表彰や発信などを通じて、全社的に共通価値として醸成していきます。
「成果を出すには、まず人を大切にする」が当たり前になる組織づくりがゴールです。
【取り組み事例】先進企業の実践から指標の活用を学ぶ
ウェルビーイング経営は、すでに多くの企業で実践が始まっています。
ここでは、代表的な3社の取り組み事例を紹介し、それぞれがどのように従業員の幸福と経営成果を結びつけているのかを見ていきます。
実例から、自社に活かせるヒントをつかみましょう。
トヨタの「幸せの量産」戦略
トヨタ自動車は、「幸せの量産」を企業ミッションとして掲げ、従業員のウェルビーイング向上に本気で取り組んでいます。
社内では、未来創生センターを中心に「Emotional Well-Being研究会」を設立し、製造現場を含む幅広い職種を対象に、仕事の意味やつながり、心の健康について多角的に議論しています。
現場ごとの価値観や課題に応じた“面倒見”の再定義や、従業員間の認識ギャップを埋めるための対話も重視しており、Well-beingの実践を現場レベルから進めています。
参考:幸せの量産をミッションに掲げる私たち従業員のWell-beingを見つめる | 未来につながる研究 | モビリティ | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
楽天のWell-being First 宣言
楽天グループは、「Well-being First」という健康宣言を掲げ、従業員の心身の健康を企業の中核に据えた取り組みを進めています。
健康課題の特定とデータ活用に基づく施策設計を行い、ウォークラリーや社内セミナー、マインドフルネスなど、従業員参加型の健康促進活動も活発に実施しています。
また、定期的なウェルビーイングサーベイやストレスチェックによるモニタリングも導入し、科学的な指標で心身の状態を可視化・改善しています。
イトーキの空間×働き方のウェルビーイング支援
イトーキは、オフィス空間と働き方の関係をデータで可視化し、ウェルビーイングを高めるための伴走型コンサルティング「Data Trekking」を開始しました。
センシングデータや組織サーベイをもとに、エンゲージメントやパフォーマンスの状態を分析し、より快適で機能的な職場環境を継続的に構築していくことを目的としています。
空間設計や運用ルールの改善まで一貫してサポートするこの取り組みは、人的資本経営を空間から支える先進的な事例として注目されています。
参考:「働き方×働く環境」をデータドリブンで改善し続ける新サービス第1弾「Data Trekking」誕生 | ニュースルーム | ITOKI 企業情報サイト
記事のまとめ:指標を活用したウェルビーイング経営で組織を強くしよう
ウェルビーイング経営は、従業員の幸福を中核に据えた経営戦略でありながら、企業の生産性や競争力にも直結する「強い経営」の基盤です。
PERMAモデルやギャラップ社の分類をはじめとした複数の指標を活用すれば、目に見えにくい幸福感も可視化でき、指標に基づいた実効性のある施策につなげることができます。
すでにトヨタ・楽天・イトーキといった先進企業では、自社に合ったアプローチでウェルビーイング経営を推進しています。
今後は、主観・客観両面からの継続的なモニタリングと、柔軟な改善サイクルが成否を分ける鍵になるでしょう。
企業が長く愛され、従業員がいきいきと働ける組織を目指すなら、今こそ「ウェルビーイング経営」に本気で向き合う時です。
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