全身の"もしも"を見逃さない、あなたに合ったがん検査を選ぼう
がんの検査方法は、医療技術の進歩とともに日々進化を続けています。
その中でも、全身のがんを一度に調べられるMRI検査(DWIドック)とPET検査は、高精度な検査方法として多くの医療機関で採用されています。
これらの検査は、体の様々な部位を詳しく調べることができ、症状が現れる前の早期発見に貢献しています。
この記事では、全身がん検査の代表的な2つの方法について、その特徴や違い、検査の流れなど、知っておくべき基礎知識を分かりやすく解説していきます。
全身がん検査の重要性
がんは早期発見・早期治療が鍵となる疾患です。
誰にとっても気がかりな病気ですが、早期に発見して適切な治療を受けることで、多くの方が健康を取り戻されています。
全身がん検査は、まだ症状が現れていない段階でがんを見つけることができる心強い味方です。
現代では日本人の2人に1人ががんを経験すると言われており、定期的な全身がん検査は、ご自身やご家族の健康を守るための大切な一歩となります。
がんの早期発見と生存率の関係
がんは早期に発見できれば、より良い治療の選択肢が広がり、回復の可能性も大きく高まります。
例えば、胃がんの場合、早期発見であれば95%もの方が5年後も健康に過ごされています。
一方で、進行してからの発見では、その割合は約30%となってしまいます。
全身がん検査を受けることで、まだ自覚症状のない段階でがんを見つけられる可能性が高まり、より良い治療方法を選べる可能性が広がります。
全身がん検査の必要性
全身がん検査の特長は、体の様々な部分を一度にチェックできることです。
これにより、もし何かあった場合でも、早い段階で見つけることができます。
また、定期的に検査を受けることで、少しずつの変化にも気づきやすくなり、より確実な健康管理につながります。
ご自身やご家族の健康が気になる方は、医師と相談しながら、あなたに合った検査計画を立てていくことをおすすめします。
なお、今回は全身がん検査の代表としてMRI検査(DWIドック)とPET検査の基礎知識を解説していきますが、具体的な検査内容や頻度については、年齢や生活習慣、ご家族の病歴などによって異なります。
かかりつけ医とよく相談の上、最適な健康管理方法を見つけていきましょう。
MRI検査(DWIドック)について
MRI検査(DWIドック)は、全身がん検査の中でも注目を集めている方法の一つです。
放射線被ばくがなく、高い精度でがんを発見できる可能性があることから、多くの方に選ばれています。
DWIドックは、特殊なMRI撮影技術を用いて、体内の異常を詳細に調べることができます。
ここでは、DWIドックの仕組みや特徴、そして検査の流れについて詳しく解説していきます。
DWIBSの原理と特徴
DWIBS(Diffusion-Weighted Whole Body Imaging with Background body signal Suppression)は、MRI検査の一種で、体内の水分子の動きを利用してがん細胞を検出する技術です。
がん細胞は正常な細胞に比べて水分子の動きが制限されており、この違いを画像化することで、がんの存在を推定します。
DWIBSの特徴は、全身を一度に撮影できること、造影剤を使用せずに検査が可能なこと、そして放射線被ばくがないことです。
DWIBSでわかること・わからないこと
DWIBSは、全身のがんの有無を広く検査できる方法ですが、すべてのがんを100%発見できるわけではありません。
わかること
- 1mm程度の小さながんも発見できる可能性がある
- 脳、肺、肝臓、膵臓、腎臓、前立腺などの臓器のがん
- リンパ節転移や骨転移の有無
わからないこと
- 胃や腸などの消化管のがんは検出が難しい場合がある
- 良性腫瘍と悪性腫瘍の完全な区別は難しい
- 炎症などのがん以外の異常も高信号として映るため、他の検査と組み合わせて総合的に判断する必要がある
DWIBS検査の流れと所要時間
DWIBS検査の流れは以下のようになります。
- 検査前の準備:金属製品を外し、検査着に着替えます。
- MRI装置への入室:ベッドに横たわり、装置内に入ります。
- 撮影:約30〜40分程度、静かに横たわった状態で撮影を行います。
- 検査終了:撮影が終わったら、着替えて終了です。
全体の所要時間は、準備や着替えを含めて約1時間程度です。
検査中は装置内で静止した状態を保つ必要がありますが、痛みはなく、放射線被ばくもありません。
PET検査について
PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)検査は、がん細胞の代謝活性を利用して全身のがんを発見する高精度な検査方法です。
微量の放射性薬剤を体内に投与し、がん細胞に集まる様子を特殊なカメラで撮影します。
全身を一度に調べられる上、1cm未満の小さながんも発見できる可能性があるため、多くの医療機関で採用されています。
ただし、被ばくを伴うため、検査の必要性については医師とよく相談することが大切です。
PET検査の原理と特徴
PET検査は、がん細胞の旺盛な糖代謝を利用しています。
検査では、ブドウ糖に似た性質を持つ放射性薬剤(FDG)を静脈注射し、体内でのFDGの分布を特殊なカメラで撮影します。
PET検査の特長は以下のとおりです。
- 全身を一度に調べられる
- 機能的な異常を捉えられる(代謝の変化を見る)
- 1cm未満の小さながんも発見できる可能性がある
- がんの進行度や転移の有無も評価可能
がん細胞は正常細胞よりも多くのFDGを取り込むため、画像上で明るく光って見えます。
PETでわかること・わからないこと
PET検査もDWIBS検査と同様に、非常に感度の高い検査方法ですが、完璧ではありません。
PET検査でわかることとわからないことは以下の通りです。
わかること
- 多くの種類のがんの存在と位置
- がんの悪性度や活動性
- がんの転移や再発の有無
- 治療効果の評価
わからないこと
- 脳腫瘍(正常な脳組織も糖代謝が活発なため)
- 尿路系のがん(FDGが尿中に排泄されるため)
- 1cm未満の微小ながんは見つけにくい
PET検査の流れと所要時間
PET検査の流れは以下のようになります。
- 検査前の準備:検査前日夜から絶食し、検査当日は水のみ摂取可能です。放射性薬剤の投与:FDGを静脈注射します。
- 安静待機:FDGが体内に行き渡るのを待ちます。約1時間、動かずに安静にします。
- PET-CT撮影:30分ほど専用のベッドに横たわり撮影を行います。
- 検査終了・帰宅
全体の所要時間は、準備時間を含めて約2時間半程度です。
検査後は特に制限はありませんが、当日は乳幼児との長時間の接触を避けることが推奨されます。
MRI検査(DWIドック)とPET検査を比較
MRI検査(DWIドック)とPET検査は、どちらも高い信頼性を持つ全身がん検査の方法として評価されています。
そのため「どちらの検査を選ぶべきか」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
それぞれの検査方法には特徴があり、どちらの全身がん検査を受けるかは、年齢や健康状態、検査の目的などによって異なってきます。
また2つの検査方法は、それぞれ得意とする部分が異なりますので、医師と相談しながら、最適な検査方法を選ぶのがおすすめです。
検出できるがんの種類
MRI検査(DWIドック)とPET検査では、検出できるがんの種類に若干の違いがあります。
検査方法 | 得意なタイプ | 苦手なタイプ |
---|---|---|
MRI検査(DWIドック) | – 脳腫瘍 – 肝臓がん – 前立腺がん – 骨転移 |
– 肺がん(一部) – 消化管のがん |
PET検査 | – 肺がん – リンパ腫 – 大腸がん – 膵臓がん |
– 脳腫瘍 – 尿路系のがん – 前立腺がん(一部) |
検査の精度と限界
先述の通り、両検査とも高い精度を持っていますが、それぞれに限界があります。がん検診の選択にあたっては、これらの特徴を理解し、自身の状況に最適な方法を選ぶことが重要です。
MRI検査(DWIドック)
- 精度:1mm程度の小さながんも検出可能
- 限界:良性腫瘍と悪性腫瘍の完全な区別が難しい
MRI検査は特に軟部組織のがんの検出に優れています。
磁気を利用するため、X線などの放射線被ばくがなく、繰り返し検査が可能です。
ただし、検査時間が長いため、閉所恐怖症の方には負担が大きいかもしれません。
PET検査
- 精度:5mm程度のがんから検出可能、がんの活動性も評価できる
- 限界:炎症などでも陽性反応を示すことがある(偽陽性)
PET検査はがん細胞の代謝活性を直接観察できるため、がんの悪性度や転移の評価に優れています。
しかし、正常組織でも代謝が活発な部位(脳や心臓など)では、がんの検出が難しい場合があります。
被ばくのリスク
被ばくのリスクについても、両検査で大きく異なります。
この点は、特に定期的な検査を考えている方や、妊娠中・授乳中の方にとって重要な判断材料となりますので、必ず覚えておきましょう。
MRI検査は被ばくなし
- 放射線被ばくなし
- 妊娠中でも受検可能(ただし、医師の判断が必要)
既に述べた通り、MRI検査は放射線を使用しないため、被ばくの心配がありません。
ただし、強い磁場を使用するため、体内に金属がある方は注意が必要です。
また、造影剤を使用する場合は、アレルギー反応のリスクがあるため、事前の確認が重要です。
PET検査は微量の被ばくがある
- 微量の放射線被ばくあり(一般的なX線検査の2〜3倍程度)
- 妊娠中や授乳中の方は原則として受検不可
前述のように、PET検査では放射性薬剤を使用するため、微量ながら被ばくがあります。
ただし、この被ばく量は日常生活で受ける自然放射線量と比較しても低く、健康への影響は極めて小さいと考えられています。
しかし、妊娠中や授乳中の方は、胎児や乳児への影響を考慮して、原則として検査は避けましょう。
両検査とも、それぞれの特徴を活かして総合的に判断することで、より正確な診断が可能になります。
個人の状況や目的に応じて、適切な検査方法を選択することが重要です。
また、定期的に全身がん検査を受ける場合は、PET検査とMRI検査(DWIドック)を組み合わせたり、交互に受けたりすることで、より総合的な健康管理が可能になります。
全身がん検査の費用
がん検査は、病気の早期発見と治療に大切な役割を果たします。
ですが、検査にはお金もかかるので、費用の面も考えながら検査を選ぶことが大切です。
また、検査費用は気になるところですが、早期にがんを見つけることで、結果的に治療にかかる医療費を抑えられる可能性もあります。
どの検査を受けるかは、自分の健康状態や予算に合わせて、医師と一緒に考えていきましょう。
MRI検査(DWIドック)の費用は10万円前後
MRI検査(DWIドック)の費用は、医療機関によって異なりますが、一般的に10万円前後となっています。
ただし、この金額は自由診療の場合の費用であり、保険適用外となります。
PET検査の費用も10万円
PET検査の費用も、MRI検査と同様に医療機関によって異なりますが、一般的な相場は10万円前後です。
保険適用の有無
全身がん検査は、原則として保険適用外となります。
しかし、特定の条件下では保険が適用される場合があります。
保険適用となる主な条件
- 他の検査でがんの診断や転移・再発が確定できない場合
- 病理組織学的にがん(悪性腫瘍)と診断された場合
- がん治療前の病期診断に活用する場合
- がんの転移・再発が疑われる所見がある場合
保険適用時の自己負担額(PET検査の場合)
- 1割負担:10,000〜12,000円
- 2割負担:20,000〜24,000円
- 3割負担:30,000〜36,000円
なお、加入している健康保険や自治体によっては、全身がん検査の費用の一部を負担してくれる場合もあります。
全身がん検査を受ける前に、医療機関に保険適用について確認しましょう。
全身がん検診を受ける前に準備すべきこと
全身がん検診を受ける前には準備が必要です。
しっかりと準備をしておくことで、より正確に検査結果を得ることができますし、検査もスムーズになります。
ここでは、全身がん検査前に準備することについて説明します。
1. 食事制限
PET検査では、検査の6時間前から食事を控えてください。
午前中の検査を予定している方は、前日の午後9時までに食事を済ませましょう。
なお、水やお茶は問題ありませんが、コーヒー、牛乳、野菜ジュースの摂取は控えてください。
2. 服薬
血圧・心臓の薬は、いつも通りに服用して問題ありません。
糖尿病治療薬については、個別に注意が必要な場合があるため、事前に医療機関で確認が必要です。
3. 服装
アクセサリーなどの金属製品は外しておきましょう。
検査着に簡単に着替えられるよう、動きやすい服装で病院に行くことをおすすめします。
その他
妊娠の可能性がある方は、事前に医師に申し出ておきましょう。
また、閉所恐怖症をお持ちの方は、検査前に相談することをおすすめします。
その他の検査方法
全身がん検査には、MRI検査(DWIドック)やPET検査以外にも様々な方法があります。
これらの検査方法は、それぞれ特徴や適用範囲が異なるため、個人の状況や目的に応じて選択することが重要です。
ここでは、血液検査による全身がんスクリーニングとがん検査キットについて解説します。
血液検査による全身がんスクリーニング
血液検査による全身がんスクリーニングは、血液中のがん関連物質や腫瘍マーカーを測定することで、がんの可能性を評価する方法です。
特徴
- 非侵襲的で簡便な検査方法
- 複数のがん種を同時にスクリーニング可能
- 定期的な検査が容易
限界
- 特異性が低い場合があり、偽陽性の可能性がある
- 早期がんの検出には限界がある場合がある
線虫検査(N-NOSE)
線虫検査(N-NOSE)は、線虫の嗅覚能力を利用してがんを検出するがん検査キットです。
特徴
- 尿サンプルを使用する非侵襲的ながん検査キット
- 高い感度でがんを検出できる可能性がある
- 複数のがん種を同時にスクリーニング可能
限界
- まだ研究段階の技術のため、あくまでも一次スクリーニングとして使用
- がんの種類や部位の特定(診断)には追加の検査が必要
血液検査とがん検査キット、そして従来の画像診断を組み合わせることで、がん検診の精度と包括性を高められる可能性があります。
ただし、最適な検査方法は一人ひとりの健康状態や家族歴、リスク要因によって異なるため、専門医と相談しながら慎重に選択することが重要です。
記事のまとめ
「自分は大丈夫」と思っていても、がんは誰にでも起こりうる病気です。
現在では、全身MRI検査やPET検査など、高精度な検査方法が確立されており、症状が出る前の早期発見が可能になっています。
たとえば胃がんの場合、早期発見では95%の方が5年後も健康に過ごせるのに対し、進行してからでは30%まで低下してしまいます。
このような大きな差を生む早期発見のためにも、定期的な全身がん検査の受診をお勧めします。
年齢や状況に応じて最適な検査方法は異なりますので、かかりつけ医に相談しながら、あなたに合った検査計画を立ててみてくださいね。
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