
法定外福利を活用した従業員向け健康診断制度を設計しよう!
健康診断は法律で定められた義務である一方、企業の福利厚生としても重要な役割を果たしています。
しかし、健康診断費用の経費計上や、福利厚生としての効果的な活用方法については、多くの企業で課題となっているのが現状です。
人事・総務部門の方は、税務上の取り扱いや、従業員満足度の向上につながる制度設計に頭を悩ませることも多いでしょう。
この記事では、健康診断の実務に関わる方々に向けて、健康診断の福利厚生としての活用方法から具体的な運用まで、実践的な情報をお届けします。
健康診断と福利厚生費の基本知識
健康診断は、従業員の健康を守り、職場環境を安全で快適に保つために企業が実施する大切な取り組みです。
ここではまず、健康診断の種類や法的義務についてご説明し、その上で福利厚生費の基本的な定義や活用方法についてお伝えしていきます。
健康診断の種類と法的義務
企業が実施する健康診断には、大きく分けて「法定健康診断」と「法定外健康診断」の2種類があります。
それぞれの特徴と具体例をご紹介します。
法定健康診断
法定健康診断とは、労働安全衛生法に基づき、企業に義務付けられている健康診断です。
従業員の健康状態を把握し、職場での安全性を確保するために欠かせないものとされています。
主な例は以下のとおり。
- 定期健康診断:常時使用する労働者全員を対象に年1回実施。血圧測定や視力検査、胸部X線検査など基本的な項目が含まれています。
- 雇入時健康診断:新たに雇用された労働者が対象で、採用時点での健康状態を確認するために行われます。
これらは法律で義務付けられており、未実施の場合は罰則が科される可能性があります。
そのため、法定健康診断は企業としてきちんと実施しなければいけません。
法定外健康診断
一方、法定外健康診断は法律での義務付けはありません。
従業員の健康管理や満足度向上のために、企業が自主的に実施する健康診断が、法定外健康診断です。
主な例として以下があります。
- 人間ドック:生活習慣病やがんなどの早期発見を目的とした精密検査です。特に中高年層の従業員にとって重要な検査といえます。
- ストレスチェック:メンタルヘルスケアのため、心理的負担やストレスレベルを評価します。職場環境改善にも役立つ取り組みです。
これら法定外健康診断は義務ではありませんが、企業が積極的に導入することで従業員の健康意識向上や離職率低下につながり、大きな効果を生み出します。
福利厚生費とは?
福利厚生費は、企業が従業員の生活の質や働きやすさを支援するために負担する費用のこと。
給与や賞与といった基本的な報酬以外で、従業員に提供される様々な便益のための費用が福利厚生費です。
単なる福利厚生サービスの提供にとどまらず、従業員の働く意欲を高め、企業の生産性向上にも寄与する重要な投資といえます。
また、昨今の労働市場では、企業の福利厚生制度の充実度が、人材の採用や定着に大きな影響を与えています。
特に健康経営への関心が高まる現在、従業員の健康管理に関する支援が福利厚生の重要な柱の一つとなってきているのです。
法定福利と法定外福利の違い
福利厚生費は、大きく分けて「法定福利」と「法定外福利」の2つに区分されます。
先ほども説明した通り、健康診断は法定健康診断と法定外健康診断に分かれ、法定健康診断は労働安全衛生法に基づき企業に義務付けられているため「法定福利」に該当。
一方、人間ドックや特定のオプション検査など、法律で義務付けられていない健康診断は「法定外福利」に分類されることを覚えておきましょう。
法定福利 | 法定外福利 | |
---|---|---|
定義 | 法律で企業に義務付けられている福利厚生 | 企業が自主的に提供する福利厚生 |
例 | 定期健康診断、雇入時健康診断、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険 | 人間ドック補助、オプション検査(がん検診など)、レクリエーション費用、住宅手当 |
目的 | 従業員の最低限の生活保障や健康維持 | 従業員の生活水準向上や満足度向上 |
義務性 | 企業に提供義務がある | 企業の裁量で提供される |
近年は特に法定外福利として、人間ドックやストレスチェックなどへの注目が集まっています。
法定外福利を効果的に取り入れることで、税務面でのメリットと従業員満足度の向上を同時に実現できるでしょう。
このように健康診断は、単なるコストではなく戦略的な投資として捉えることが大切です。
そのためにも、企業規模や従業員構成に合わせた制度設計を心がけていきましょう。
健康診断費用を福利厚生費として計上する3つの要件
健康診断費用を福利厚生費として計上することで、税務上のメリットを得ながら、従業員に公平な健康診断を提供できるようになります。
ここでは、健康診断にかかった費用を福利厚生費で計上するための3つの要件について解説していきます。
1. 全従業員が対象であること
福利厚生費として健康診断費用を計上する場合、まず大切なのが全従業員が平等に受診できる仕組みづくりです。
特定の役職や部門だけを対象としてしまうと、福利厚生費として認められなくなる可能性があります。
具体的には、正社員はもちろん、パートタイム労働者や契約社員まで、すべての従業員を対象に含めていきましょう。
ここでいう「全従業員」とは、企業が雇用するすべての労働者のこと。
受診機会を一律で提供することによって、公平性を保ちながら従業員全体の健康維持を実現することができます。
2. 常識的な範囲内の金額であること
健康診断費用は、常識の範囲内におさめることが大切です。
極端に高額な検査や過剰なオプション検査を設定してしまうと、福利厚生費として認められない可能性が出てきます。
具体的には、法定健康診断に必要な基本項目や、人間ドックなど合理的な範囲内での追加検査が対象となります。
なお、人間ドックを導入する際も、全額会社負担とするか、それとも一部補助にとどめるか、慎重に検討しましょう。
金額設定にあたっては、他社の事例を参考にしたり医療機関と相談したりしながら、適切な水準を見極めるのがおすすめです。
3. 会社が医療機関に費用を直接支払うこと
健康診断費用が福利厚生費として認められるためには、企業から医療機関への直接支払いという形を取りましょう。
従業員個人が一度立て替えて後で精算する形では、経済的利益とみなされ、課税対象となってしまう可能性があります。
そのため、企業側で医療機関と契約を結び、一括して支払い処理を行う仕組みを整えることをおすすめします。
これにより、税務上のリスクを避けながら、スムーズな運用が可能となるのです。
注意点と税務上のポイント
健康診断費用を福利厚生費として計上する際には、いくつかの重要な注意点があります。
ポイントをしっかり押さえて税務リスクを避けながら、従業員の健康管理をサポートする制度を運用しましょう。
高額オプション検査や家族分の負担は課税リスクあり
健康診断費用が従業員個人への「経済的利益」とみなされると、課税対象となってしまいます。
高額なオプション検査や家族分の検査費用を企業が負担するケースでは、従業員個人への利益と判断される可能性があるので注意が必要です。
このような場合、福利厚生費としての認定が難しく、給与所得として課税されるリスクが出てきます。
繰り返しにはなりますが、特定の従業員だけが受けられる制度や、一部の役職者のみを対象とした検査は公平性を欠くため避けたほうがよいでしょう。
福利厚生費として認められるためには、全従業員を対象とした一律の制度を構築してください。
自己負担ルールの見える化がカギ
一部自己負担制を取り入れる場合は、その割合や金額について明確なルールを設けましょう。
例えば、「基本検査は全額会社負担、オプション検査は50%自己負担」といった具体的な基準を定め、従業員にしっかりと伝えることが大切です。
こうすることで、従業員間での不公平感をなくし、制度への信頼を高めることができます。
自己負担分の支払い方法についても工夫が必要です。
給与天引きや個別請求など、手続きがスムーズに進む仕組みを整えることで、従業員と企業の双方にとって負担の少ない運用が可能となります。
税務調査対策で証拠をしっかりとっておくべし
健康診断費用を福利厚生費として計上する際、税務調査では特に支払い方法や対象者範囲についてよく確認されます。
「実際には一部の従業員しか受診していない」「会社負担分と従業員負担分の区別があいまい」といった点は、指摘を受けやすい項目です。
こうしたリスクを防ぐため、契約書や領収書などの証拠書類はきちんと保管しておきましょう。
- パート/アルバイトの受診確認書
- 医療機関への振込証明書
- 福利厚生規程の改訂履歴
医療機関との契約内容や支払い明細も詳しく記録し、漏れなく管理することが大切です。
税務調査の際には、「全従業員対象」「一律受診」という条件を満たしていることを説明できるよう、資料を整えておくとより安心です。
このように細かな点にも気を配ることで、企業は税務上のリスクを抑えながら、公平で透明性のある健康診断制度を作り上げることができます。
そうした丁寧な運用は、従業員からの信頼を集め、企業全体の成長へとつながっていくのです。
健康診断を福利厚生として導入する際の3ステップ
健康診断を福利厚生として導入する際には、計画的かつ段階的に準備と運用を進めていくことが重要です。
ここでは、具体的な進め方をご紹介します。
ステップ1. 社内ニーズの把握
まずはじめに大切なのが、従業員のニーズを正確に把握することです。
アンケートやヒアリングを通じて、どのような検査項目や補助制度が求められているのかを丁寧に調査していきましょう。
例えば、中高年層の方々には人間ドックや生活習慣病検査へのニーズが高く、一方で若年層の方々にはストレスチェックなどメンタルヘルスケアへの関心が強い傾向にあります。
また、受診方法についても、会社指定の医療機関での受診を希望される方と、個別に医療機関を選びたい方がいらっしゃるかもしれません。
このように、従業員が求めていることを知ることで、会社全体にとって最適な健康診断プランを設計するための土台が築けるのです。
ステップ2. 健康診断プランの設計
次は、自社に適した健康診断プランを設計する段階です。
法定健康診断はもちろんのこと、人間ドックやオプション検査など、さまざまな検査項目を取り入れることで従業員満足度を高めることができます。
先述した通り、法定検査には、労働安全衛生法で定められた定期健康診断や雇入時健康診断が含まれます。
さらに、生活習慣病予防やがん検診といったオプション検査も、従業員の希望に応じて検討していきましょう。
また、医療機関との提携方法も重要なポイントです。
一括契約や予約システムの導入により、効率的な運用が可能となります。
中小企業の場合は、地域の医療機関との連携やグループ契約によるコスト削減も検討の価値があるでしょう。
ステップ3. 就業規則への記載と周知
最後のステップは、新たな制度を就業規則に明文化し、従業員の皆さまにしっかりと周知することです。
この過程で、制度運用時のトラブルや税務上のリスクを防ぐことができます。
社内説明会や資料配布を通じて、制度の内容を分かりやすく伝えていきましょう。
受診可能な医療機関や、具体的な手続きの流れ、費用負担の仕組みなど、実務的な情報もしっかりと説明することが大切です。
また、制度導入後は受診率を高めるため、定期的なリマインダーの送付や個別相談への対応など、きめ細かなフォローアップ体制を整えていくことをおすすめします。
記事のまとめ
多くの企業にとって、「健康診断=法定義務として実施するもの」という認識が一般的です。
しかし、これを福利厚生の一環として戦略的に活用することで、従業員の健康管理を支援しながら、企業価値の向上も図ることができます。
健康経営が注目される今、人間ドックなどの法定外健康診断を含めた包括的な制度設計は、企業の持続的な発展に欠かせない要素となっています。
この記事で解説した内容を参考に、ぜひ御社の実情に合わせた制度づくりを検討してみてくださいね。
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