健康経営はいつから?アメリカでの発祥から日本での発展まで徹底解説
健康経営はいつから始まったのか、その起源と日本での導入の歴史を探る旅に出かけましょう。
「健康」と「経営」という一見かけ離れた概念がいつから結びつき、現在の形になったのか。
そして、日本企業はいつからこの「健康経営」を取り入れ始めたのか。
この記事では、健康経営の誕生から現在に至るまでの道のりを詳しく解説します。
健康経営とは
「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営戦略の一環として捉え、積極的に推進する考え方です。
単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長のための投資として位置付けられています。
従業員の健康は企業の重要な経営資源であり、その維持・増進への取り組みは、生産性の向上や医療費の削減につながります。
また健康経営は、企業イメージの向上や採用競争力の強化など、様々な経営課題の解決にも効果があることもわかってきているのです。
なぜ今、健康経営が注目されているのか
昨今、健康経営が注目を集める背景には3つの大きな社会変化があります。
第一に、労働人口の減少による人材確保の必要性、第二に、従業員の健康意識の高まり、第三に、企業の社会的責任への注目度の上昇です。
特にコロナ禍以降、従業員の健康管理の重要性は一層高まっています。
また、働き方改革関連法の施行やESG投資の拡大により、企業における健康管理の重要性が増したことは明らかでしょう。
特に若い世代の間で、健康経営は就職先を選ぶ際の重要な判断基準の一つとなっており、人材確保の観点からも注目されています。
健康経営がもたらす効果
健康経営の実践により、以下のような多面的な効果が期待できます。
- 従業員側:モチベーション向上、ワークライフバランスの改善
- 企業側:生産性の向上、離職率の低下、採用競争力の強化
- 社会的側面:医療費の適正化、持続可能な社会保障制度への貢献
実際に健康経営に取り組む企業では、従業員の健康リスク低減による医療費抑制効果も報告されているのです。
健康経営の始まりはいつから?アメリカでの誕生の歴史
今では当たり前の概念になった健康経営はいつから始まったのでしょうか。
その歴史を理解するには、1990年代のアメリカに遡る必要があります。
企業における従業員の健康管理の考え方が大きく変わったこの時期に、現在の健康経営の基礎が築かれました。
その変革を主導したのが、臨床心理学者のロバート・H・ローゼン博士です。
1990年代:ロバート・H・ローゼン博士による提唱
健康経営の概念は、1990年代にアメリカの臨床心理学者ロバート・H・ローゼン博士によって提唱されました。
ロバート・H・ローゼンは、著書『The Healthy Company』(ヘルシーカンパニー)で、企業の持続的な成長には従業員の健康が不可欠だと説きました。
この考えが、当時のアメリカ企業が直面していた医療費高騰の問題に対する革新的な解決策として注目を集めます。
従業員の健康を投資として捉える新しい経営観である健康経営は、多くの企業経営者の共感を得ることになっていくのです。
企業の医療費負担増加が背景
当時のアメリカでは、公的医療保険制度が整備されておらず、企業が従業員の医療費を負担する仕組みが一般的でした。
また医療費の高騰は企業経営を圧迫し、新たな解決策が求められていました。
特に大企業では、従業員の健康関連コストが企業の収益を大きく左右する要因となっており、この課題への対応は経営上の重要事項となっていました。
そのため、予防的な健康管理の重要性が認識され始めたのです。
「疾病モデル」から「生産モデル」への転換
従来の「疾病モデル」(病気になってから対処する方式)から、予防的な健康管理を重視する「生産モデル」への転換が提案されました。
この新しいアプローチにより、従業員の健康を投資として捉える考え方が確立されました。
この転換は、単なる医療費削減策ではなく、従業員の生産性向上や企業価値の向上につながる戦略として位置づけられ、その後の健康経営の基礎となったのです。
企業による予防的な健康管理プログラムの導入も、この頃から本格化していきます。
日本において健康経営はいつから始まったのか
アメリカで生まれた健康経営の概念は、日本独自の進化を遂げることになります。
その歩みは、2006年のNPO法人健康経営研究会の設立から始まり、現在では国家戦略として推進されるまでに発展しています。
ここでは、日本において健康経営はいつから始まったのかについて解説していきます。
導入期(2006年)
日本での健康経営は、2006年のNPO法人健康経営研究会の設立から本格的に始まります。
健康経営研究会は、アメリカの概念を日本の企業文化に適合させる形で導入を進めました。
この時期は、日本企業における健康管理の考え方が、法令遵守の観点から戦略的な経営課題へと移行し始めた転換期でもありました。
企業の持続的な成長には従業員の健康が不可欠、という認識が徐々に日本で広がり始めていたのです。
政策への組み込み(2013年~)
2013年、政府が「日本再興戦略」を発表。
翌年の2014年改訂版で「健康経営」の概念が組み込まれ、健康経営は国策として推進されることになりました。
2014年には「健康経営銘柄」の選定が開始され、2016年には「健康経営優良法人認定制度」が創設されました。
この時期に、経済産業省と東京証券取引所が連携し、優れた健康経営の実践企業を評価・公表する仕組みが整備されています。
これにより、健康経営への取り組みが企業価値として評価される基盤が形成されていきました。
発展期(2017年~)
2017年の「未来投資戦略」では、データヘルスの活用や健康経営の質的向上が強調されました。
2019年以降は、より実践的な施策として「健康投資管理会計ガイドライン」が策定され、投資効果の可視化が進められています。
特に注目すべきは、健康経営の評価指標が整備され、取り組みの効果を数値化できるようになったことです。
これにより、投資家や求職者が企業の健康経営への取り組みを客観的に評価できるようになりました。
現在の健康経営の実施状況
健康経営に取り組む企業は、近年急速に増加しています。
大企業から中小企業まで、その広がりは着実に進んでおり、業界や規模によって特徴的な取り組みが見られるようになってきました。
認定企業数の推移
健康経営優良法人の認定企業数は年々増加しており、2024年の認定では大規模法人部門で2,988法人、中小規模法人部門で16,733法人に達しています。
これは前年比でそれぞれ約12%、19%の増加となっています。
この急速な増加の背景には、企業の健康経営に対する認識の高まりだけでなく、政府による支援策の充実や、取引先からの評価向上といった実務的なメリットも影響していると考えられるでしょう。
企業規模別の取り組み状況
現在の健康経営への取り組み状況は、大企業では72.4%、中小企業では54.1%が実施しており、全体では56.9%の企業が何らかの健康経営施策を実施しています。
特に注目すべきは、中小企業における実施率の上昇です。
地域金融機関による融資優遇制度の創設や、自治体による認定制度の整備により、中小企業でも取り組みやすい環境が整ってきていることがわかります。
業界別の特徴
業種によって健康経営への取り組み方に特徴が見られます。
IT業界や金融業界では、メンタルヘルス対策や働き方改革と連動した取り組みが活発です。
製造業では、作業環境の改善と健康管理を組み合わせた取り組みが特徴的。
また、医療・介護業界では従業員の健康管理が直接的にサービスの質に影響するため、より専門的で体系的な取り組みが行われています。
近年では、小売業でも接客品質の向上を目的とした健康経営の実践が増えています。
健康経営が必要とされる日本の社会的背景
健康経営がこれほどまでに必要とされている背景には、日本社会が直面している構造的な課題があります。
ここでは、健康経営が日本で必要とされる社会的背景について考えていきましょう。
少子高齢化と労働人口減少
日本の生産年齢人口(15-64歳)は継続的に減少しており、2040年には現役世代1.5人で1人の高齢者を支える社会が予測されています。
この人口構造の変化が、企業経営にも大きな影響を及ぼしているのです。
このような状況下で企業が持続的な成長を実現するためには、以下の取り組みが重要になってきています。
- 一人当たりの生産性向上
- 高齢者の活躍推進
- 健康寿命の延伸
- 女性の活躍推進
特に、従業員の健康維持・増進は、これらの課題に対する重要な解決策として注目されています。
医療費・社会保障費の増大
高齢化に伴い、国民医療費は年々増加傾向にあります。
2040年度には現在の1.5倍以上になると予測されており、この課題への対応は企業にとっても重要な経営課題です。
健康経営の推進により期待される効果として、以下のようなことが挙げられます。
- 従業員の医療費抑制
- 企業の健康保険料負担の適正化
- 予防医療の推進による長期的なコスト削減
- 従業員の健康意識向上による医療費適正化
働き方改革との関連性
健康経営は働き方改革と密接に関連しています。
従業員の健康維持・増進は、生産性向上の基盤となり、企業の競争力強化につながるからです。
最近の働き方改革では、以下の要素と健康経営が結びついているといえるでしょう。
- 長時間労働の是正
- テレワークの推進
- ワークライフバランスの実現
- 柔軟な勤務制度の導入
これらの施策は、従業員の心身の健康維持に寄与するとともに、企業の生産性向上にも貢献しています。
これからの健康経営
ここまで、健康経営がいつから始まったのか、現在までの流れを紹介してきました。
健康経営は、今後さらなる発展が期待される経営戦略です。
特にデジタル技術の進歩やSDGsへの注目の高まりは、健康経営に新たな可能性をもたらしています。
これからの健康経営がどのように進化していくのか、重要な転換点を迎えているといえます。
デジタル技術の活用
健康経営の新たな展開として、デジタル技術の活用が急速に進んでいます。
従来の健康診断データの管理だけでなく、日常的な健康管理まで、テクノロジーの活用範囲が広がっているのです。
特に注目される取り組みとして、以下のようなものが挙げられます。
- ウェアラブルデバイスによる健康データの収集
- AIを活用した健康リスクの予測
- オンラインヘルスケアサービスの導入
- 健康管理アプリの活用
これらのテクノロジーは、従業員の健康状態をリアルタイムでモニタリングし、早期の予防措置を可能にしています。
SDGsとの関連性
健康経営は、SDGsの複数の目標達成に貢献する取り組みとして、国際的にも注目されています。
特に目標3「すべての人に健康と福祉を」と目標8「働きがいも経済成長も」との関連が強く、企業のサステナビリティ戦略の重要な要素となっています。
具体的には、健康経営は以下のSDGs目標に寄与すると考えられるでしょう。
- 目標3:従業員の健康維持・増進
- 目標5:ジェンダー平等の実現
- 目標8:働きがいのある職場づくり
- 目標17:パートナーシップの活性化
今後の展望と課題
健康経営の将来的な発展に向けて、いくつかの重要な課題が指摘されています。
特に重要なのは、取り組みの効果測定と可視化です。
投資対効果(ROI)の明確化が、さらなる健康経営普及のカギとなるでしょう。
記事のまとめ
この記事では、健康経営の誕生から現在に至るまでの道のりを詳しく解説しました。
健康経営は、1990年代のアメリカに起源を持ち、従業員の健康を経営戦略の一環として捉える重要な考え方です。
日本では2013年から本格的に導入され、以降、健康経営が企業の持続的成長に不可欠であるとの認識が広がっています。
特に、健康経営がいつから企業の重要課題となったかを考えると、2014年以降の施策が大きな転換点となりました。
現在、健康経営は単なるトレンドではなく、企業価値を高めるための戦略として位置付けられています。
今後もデジタル技術やSDGsとの連携を通じて、その重要性はますます高まっていくでしょう。
健康と経営の関係は、企業だけでなく社会全体にも良い影響を与えることが期待されています。
参考文献
- 健康経営の概念が日本で本格的に導入されたのは2013年からです。
参照元:「日本再興戦略」改訂 2014 -未来への挑戦- 平成26年6月24日
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf, (参照2024-11-05) - 2014年には「健康経営銘柄」の選定が開始され、2016年には「健康経営優良法人認定制度」が創設されました。
参照元:経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html, (参照2024-11-05) - 2017年の「未来投資戦略」では、データヘルスの活用や健康経営の質的向上が強調されました。
参照元:首相官邸「未来投資戦略2017」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf, (参照2024-11-05) - 健康経営優良法人の認定企業数は年々増加しており、2024年の認定では大規模法人部門で2,988法人、中小規模法人部門で16,733法人に達しています。
参照元:経済産業省「令和5年度健康経営優良法人認定法人一覧」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/R5ninteihouzin.pdf, (参照2024-11-05) - 日本の生産年齢人口(15-64歳)は継続的に減少しており、2040年には現役世代1.5人で1人の高齢者を支える社会が予測されています。
参照元:内閣府「令和3年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/03pdf_index.html, (参照2024-11-05) - 高齢化に伴い、国民医療費は年々増加傾向にあります。2040年度には現在の1.5倍以上になると予測されています。
参照元:厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000207399.pdf, (参照2024-11-05)
- ・本コンテンツの情報は、充分に注意を払い信頼性の高い情報源から取得したものですが、その正確性や完全性を保証するものではありません。
- ・本コンテンツは一般的な情報の提供を目的としています。医療上のアドバイスや診断、治療に関しては、必ず医療従事者にご相談ください。
- ・本コンテンツの情報は、その情報またはリンク先の情報の正確性、有効性、安全性、合目的性等を補償したものではありません。
- ・本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。